認知行動療法(CBT)とは、出来事そのものではなく、出来事に対する「認知(ものの捉え方)」に働きかけ、それをより現実的でバランスの取れたものへと修正していくことで、心理的なストレスを軽減する心理療法です。


私たちが何か出来事に直面した時、瞬間的かつ無意識的に頭にパッと浮かぶ考えやイメージを「自動思考」と呼びます。
例えば、上司に少し注意されただけで「自分は無能だ。もうこの会社にはいられない」と極端に考えてしまうような思考回路のことです。この自動思考の土台には、幼少期の経験やこれまでの人生の中で形成された「スキーマ(心の奥底にある根深い思い込みや価値観)」が存在しています。心の奥底にネガティブなスキーマを抱えていると、生み出される自動思考もネガティブで極端なものになりがちです。


これに対し、極端な思い込み(自動思考)にとらわれず、客観的な事実に基づいた柔軟でバランスの良い考え方を「適応的思考」と呼びます。
先ほどの例であれば、「今回はミスをして注意されたけれど、いつも失敗しているわけではない。次はここを改善しよう」と、現実に即して自分を過剰に追い詰めない思考のことです。


認知行動療法では、自分を苦しめる自動思考に気づき、それを適応的思考へと書き換えることを目指します。
その際、一般的には「コラム法」と呼ばれる記録表がよく使われますが、ここではコラム法ではなく、「ジャーナリング」を用いて自動思考や思考の癖を明らかにし、適応的思考へと書き換えた事例をご紹介します。


ジャーナリングによって頭に浮かんだ思考や感情をありのままに書き出すと、そこには無意識の「自動思考」がそのまま文字となって表れます。
書き出した文字を読み返すことで、自分自身を客観的に見つめ直すことができ、自分が陥りやすい「思考の癖」に気づくことができるのです。


私のジャーナリング講座での実際の事例をご紹介しましょう。
「自分にはいいところがひとつもない」と、自己肯定感の低さに深く悩んでいる受講者の方がいらっしゃいました。私は、この「ひとつもない」という極端な捉え方は「白黒思考」という思考の癖であり、単なる思い込みではないかと考えました。
そこで、その方に「自分の良いところ、これまでにできたこと、できること、スキル」をテーマにジャーナリングを行っていただきました。


するとノートには、「自分は、常にではないが優しい時もある」という気づきが書き出されました。
これは「0か100か」の極端な白黒思考ではなく、中間の「グレーゾーン」を見ることができた証であり、まさに適応的思考の芽生えです。ご自身の言葉で可視化された事実を通して、受講者の方は「自分には良いところがひとつもない」というのがただの思い込みであったことに自ら気づくことができました。


こうした気づきは、自己肯定感の向上へと確実に繋がっていきます。
今後も、自分にできることやできたこと、良いところ、スキルなどをジャーナリングで次々と書き出し、自分の価値に気づいていくことで、適応的思考はより確固たるものになっていくはずです。